歴史の闇に2度消えた元祖ポリマーオート拳銃 

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ついに入手しましたVP-70!
早速レビューをしていきたいと思いましたが、まずはVP-70の歴史を先に語りたいと思います。

【目次】

・VP-70の歴史~トイガン編~

・VP-70の歴史~実銃編~

・VP-70の欠点~構造編~

・VP-70のその後~銃器の歴史に与えた影響~

・余談コーナー1~3


この記事ではレビューはまだ始まらない&長文ばかりなので、
「エアガンレビューの方が見たいんじゃ!!!」という方は、
レビューその1を飛ばして読んでくれても構いません!

↓レビューその2はこちら↓
【タニオ・コバ】    H&K VP-70M  GBB    【レビューその2】


それではVPの歴史・・・少々お付き合いください(´∀`



【VP-70の歴史~トイガン編~】

発売は遡ること 19年前・・・

1995年、あの有名なトイガンメーカー『タニオ・コバ』から発売した本銃は瞬く間に売り切れるほどの大人気商品でした。
当時の販売価格は29,800円(ストックセット)と中々高価。

時は流れ・・・2014年現在ではプレミア価格が付けられており最高で4万円という高値で取引されています。 

それもそのはず、既に生産終了したモデルですから。
今はオークションサイトか中古リサイクルショップに極希に流れてくるのを待つしかない状況なので高値が付くのも頷けます。

さてこのVP-70、モデル化されたのがタニオコバが初ではありません。
MGCから発火式モデルガンとして販売していました。(勿論すでに廃番商品です) 

しかしこのMGC製VP-70が曲者で、「作動したらイイ方」などと評されるほど調整が難しく、
メーカーの方も「作動はかなり渋いです」などと書くほどであったくらい。

ちなみにそんな状態であったために市場には極小数しか出回らず
今ではMGC製のVP-70の方がタニオコバ製のVP-70よりプレミアが付いていて高額です。

(余談ですが、作動が渋い原因はシアースプリングが硬すぎただけだったという説もあります。)

当時MGCに所属していてこのモデルガン設計に携わっていた小林太三氏が独立し立ち上げたメーカーが『タニオ・コバ』です。

小林氏が独立後、自身が手がけたモデルガンVP-70の設計を見直し改修して生まれた物がガスブローバックガンのVP-70M。 

モデルガンのVP-70が作動難であった当時、
このガシガシ動くGBB VP-70Mが大売れしたのは言うまでもありません。 

小林氏曰く、GBBVP-70Mはモデルガン時代のリベンジだったそうです。



【VP-70の歴史~実銃編~】

さてさて、

「VP-70」と「VP-70M」って何が違うのか疑問に思った方もいらっしゃると思いますので、
ここら辺で少し実銃の話を。

H&K社はこの趣味をやっている人なら誰でも知っているドイツの有名銃器メーカーです。 

舞台は第二次世界大戦も終結間近のドイツ。

既に敗戦ムード漂う状況下、国民総武装化(日本で言うところの竹槍みたいな物。大体これを推し進める時は国が切羽詰まった状況ということ。)を推し進めるために密かに設計開発されていたのがVP(仮称)です。

VP
とはドイツ語で「フォルクス・ピストーレ(Volks Pistole)」=「国民拳銃」のこと。
(ドイツ語ではVの発音はFと同じ発音のためヴォルクスではなくフォルクスと発音します。)

車に詳しい方は既にご存知かと思います。
ドイツ語で「フォルクス・ワーゲン」は「国民自動車」のことです。
(↓フォルクスのV、ワーゲンのW)
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(↑カルルスホルストでの調印式の様子。この調印式をもってドイツは正式に降伏が決まります。日本はドイツ降伏から数ヵ月後のベルリン郊外ポツダムにてポツダム宣言をし降伏が決定、事実上第二次世界大戦は幕を閉じました。)

しかし試作段階まできたところでドイツは降伏します。
1945年、こうして終戦を迎え生産されることなく国民拳銃は姿をひっそりと消しました。

時は流れ・・・1960年代。
一度歴史の闇へと消えたVPに再び光が差すこととなります。

当初『国民武装化のために安価で作れる拳銃』をコンセプトに設計されたVPは、
今度は『兵器購入予算があまり取れない小国のための武器』へと変わり生産されます。
 
1968年にデザインが決まり、二年後の1970年には本格的に販売されました。

vp70
(↑VP-70)
製造された年、1970年の70を取って付けられた銃の名前がVP-70というわけです。 

安価を謳っているだけあって材質がポリマーという当時では珍しいフレームがプラスチックで出来た銃で、最初こそは物珍しさでそこそこ売れたそうですがすぐに失速、 
VP-70を生産していたH&K社は「これはマズイ」ということで色々とバリエーション展開をしてみたものの、
結局1989年に生産打ち切りでVP-70は再び歴史の闇へと消えることとなりました・・・。

そのバリエーション展開とは、

軍、警察機関向けに開発。
グリップを左右対象にすることで射手の利き手を選ばないユニバーサル(万人向け)なデザインへと変更されたのが『VP-70M』(Militär=ミリタリー)
vp70_2
 

民間向けに3点バーストストックを廃止してセミオートオンリーにした『VP-70Z』 (Zivil=民間)
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MGC製のモデルガンは『VP-70』をモデル化。
タニオ・コバ 製のGBBは『VP-70M』をモデル化したものになります。

『VP-70Z』は三点バーストが廃止されたモノなのでトイガン化した時の面白みが全くないため恐らくこの先もモデル化されることはないでしょう。

でも見た目はVP-70Mに非常に似ているため、グリップ側のストック基部をパテで埋め潰してしまえば『VP-70Zもどき』を作ることは出来ます。
勿体無くてそんなこと絶対出来ませんが・・・。



【VP-70の欠点~構造編~】

VP70が不発に終わった原因は発射機構にありました。

9mm弾を使用するには不向きなストレートブローバック方式を取り入れたこと。
また、擊針を直接トリガーで引っ張るストライカー方式を採用したこと。

このふたつが主な原因で大ヒットには至りませんでした。

簡易図を描いてみました↓(赤丸はスプリングを表しています。)
ストレートブローバック

ストレートブローバック(シンプルブローバック)とは、
バレルをフレーム側に固定しスライドの動きだけで装弾→排莢を行う作動方式です。


メリットは、構造がシンプルなおかげで部品点数も少なく、価格を非常に安く抑えることが出来ること。

デメリットは、スライドに直接強烈なインパクトが掛かるので破損しやすいこと。

そのデメリットを補うためにスプリングを強力な物に変えたりスライドを大きくし重量を増やしたりして発射ガスから発生するエネルギーを少しでも抑えスライドに掛かる負担を減らしています。

そのため、VP-70はスライドが大きいのです。
Replica_HK_VP70
他にも発射ガスをスライド側のみならず、前方向にも分散出来るようにライフリングを深く彫ってガスの逃げ道を作ってみたりと色々工夫されています。 

ライフリング


そして次にストライカー方式。
これも簡単に図に描いてみました。(※実際はもう少し複雑です。) 
ストライカー方式
ストライカー方式はハンマー(擊鉄)方式とは異なり、
擊針を直接動かすことで発射までのタイムラグ(※)を縮める他、ハンマーなどの突起物を排除することで服への引っかかりなどを抑える効果もあります。

[※タイムラグ]
ハンマー式      トリガーを引く→ハンマー移動→擊針移動→雷管打撃→発射
ストライカー方式   トリガーを引く→擊針移動→雷管打撃→発射


【各々の機構の欠点】
・ストレートブローバック(シンプルブローバック)は最も反動を受けやすい機構で命中精度は悪い。

・発射ガスエネルギーを分散させようとライフリングを深く彫ったことで弾丸を押し出すパワーが減り飛距離や威力が減退した。

・ストライカー方式によりトリガーの引きが重く、これもまた命中精度悪化に拍車を掛ける原因にもなった。 

また、VP-70の特徴でもあるストックを装着した3点バーストもセミオートの三倍もの反動がくるため命中精度は無論ほとんど期待出来る物ではなかったそうです。 

 


『価格を安く』をテーマに以上の機構を採用してしまったことで、

「トリガーが重い」 「反動キツイ」 「パワー弱い」 の三拍子が揃ってしまいVP-70は表舞台から姿を消すこととなってしまったのです。 



【VP-70のその後~銃器の歴史に与えた影響~】

次の舞台はオーストリア。

VP-70の火が消えかかった1980年頃に開発が進められ3年後の1983年に晴れてオーストリア軍正式採用拳銃として頭角を現してきたポリマーオート拳銃『Pi80』

その後、Pi80は米国に輸入され
民間向けに名称を『G17』と変えることになります。

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そう、メーカーはあのグロック社です。


VP-70を参考に改良を加えたとされるポリマーフレームにストライカー方式。
そしてダブルアクションオンリーであるところまでそっくりです。

唯一違うところといえば、
・ハーフコック機構内蔵型(変則ストライカー方式)であること
ショートリコイル・オペレーテッド方式(※)を採用したこと

※ショートリコイル・オペレーテッド方式とは、バレルとスライドを一時的にロックし、バレルとスライドごと少し後退(ショートリコイル)することで瞬間的に発生する膨大な発射ガスエネルギーを抑え込み残りの少数のエネルギーでスライドを開閉する方式のこと。
これによりスライドのスプリングを弱めることが出来、スライドの引き軽くすることも可能。
同時にスライドに掛かる負担も大幅に軽減されるためスライドのサイズも小型化&軽量化することも可能となりました。

ショートリコイル方式



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(↑M1911A1もショートリコイル・オペレーテッド方式のティルトバレルシステムです。)

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このようにホールドオープンした時にバレルが上を向いている状態をよく目にしますが、
それこそがショートリコイル・オペレーテッド方式なのです。



さてさて、ここまで長々と語り尽くしましたが、
グロックを始めとしM&PやXDシリーズなど数々の有名ポリマーオート拳銃を生み出し続けた原点にはVP-70がいたことを忘れないであげてください(´∀`

最後に・・・、

グロック社はPi80(G17)こそがポリマーオートの元祖としてその座を譲らない姿勢のようです。



[余談コーナーその1]


グロックなどに採用されている撃発機構もストライカー方式ですが、
あちらはただのストライカー方式ではなく変則ストライカー方式といいトリガー周りが改善された特殊な機構を持っています。

ここでの『変則』とはスライドを引くとトリガーがハーフコックされる状態(擊針がハーフコックされる状態)のことで、ただのストライカー方式にはハーフコックという概念はありません。 

なので、VP-70にマガジンを装填しスライドを引いてもハーフコックはしないので普通に重いトリガーを引かなくてはなりません。

スライドを引く行為はグロック系統ではチャンバーに弾丸を送ることとハーフコックさせることの2つが目的ですが、VP-70のような機種はただチャンバーに弾丸を送り込むだけが目的となります。

トリガーが重いというのは命中精度の点で言えば結構致命的です。
そのことを踏まえて現代のポリマーオート拳銃のほとんどは変則ストライカー方式を採用しています。

G17など、ハンマーが無くシングルアクション(ハンマー操作)が出来ない機種を、
「変則的DAOストライカー方式」と表記します。
(DAO=ダブルアクションオンリーの略称)

また、変則的DAOのようにスライドを引けば擊針がハーフコックされる機構のことを、
正式にはプリコック式と呼びます。

[余談コーナーその2]



ストライカー方式は長い擊針とスプリングを仕込む必要があるため、
ハンマーで短い擊針を叩くリボルバーなどには採用されません。

またストライカー方式のもうひとつの欠点として、
重い鉄の塊で擊針を叩きその勢いで雷管を強く叩くことができるハンマー式と比べ
ストライカー式はスプリングの伸縮力で雷管を叩くため打撃力が弱く
.45ACP弾やマグナム弾など雷管を強く叩く必要のある弾薬にはこの方式は適しません。

[余談コーナーその3]


ストレートブローバック(シンプルブローバック)はその性質上スプリングを強力なものに変えなくてはならず、
9mm弾ではスライドの引きが硬くなってしまいこれも適しません。

普通は、9mm弾より発射ガスエネルギーの弱い.22LR弾や.380ACP弾(9mmショート弾)などで使用するのがベストです。 

例えば、50AE弾を使用する大型自動拳銃『デザートイーグル』でこのストレートブローバックを採用したら、人間にはスライドが引けなくなります。

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宇宙人など地球外生命体ならスライドを引くことが出来るかもしれません(;´Д`





かつてない文章量でしたが、これにてようやく第一部は終わりです!
銃の歴史や仕組みは学んでみると、とても合理的で非常に面白いものばかりですね(´∀`

と、まぁそれはさておきそれではいよいよVP-70Mのレビュー本番始まります!

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